漫画「累(かさね)」は人の美醜と劣等感を描いた悲劇だ
累を読みました。
この作品は松浦だるまさんの2013〜18年までイブニングで連載された作品です。
一度7巻くらいまで出てたときに読んで引き込まれて以来間が空いてしまいましたが、完結したことを知り読み切りました。
ストーリーは非常に重く、精神的にもきつい部分が多い作品。
主人公のかさねが蔑まれるような見た目を持ち、その劣等感や憤りを原動力にしながら舞台という光を目指す姿は、応援したくなる気持ちもあった。
しかし、周囲をどんどん不幸にし、さらに自分も満たされないかさねの姿にだんだん同情もなくなった。
この作品からは、「見た目の美醜は関係ない!努力が大切!」みたいなありふれたメッセージではなく、もっとリアリティのある感情が伝えられた。
それは、世の誰もが自分以外になり得ない、ということである。
姿を変えて舞台に立ったかさねも、顔を奪われたニナや野菊も、仮の姿でいたときにはみな幸せになれなかった。
美醜の差や生まれ持ったものなど、他者と比べた自分の劣等感はどうしようも出来ないものだ。
それでもそれを受け入れて、自分として生きるときに初めて実体を伴って一歩進めるのではないか。それが最後にかさねが表現したことだろう。
誰にも劣等感はあって、それは他人からは覗けない。だから他者を理解することは難しいし、自分を理解してもらうこともさらに困難だ。
自分は自分との対話の中で、自分と折り合いをつけていくしかない。
単純に面白い作品という言葉では表現できない気がする。
自分の心に何か爪痕や傷痕のようなものを残して去っていった作品だった。